【入門】Black Beauty

グレイ家の広い牧場で生まれた黒毛の美しい馬は、4歳になった時、母馬や仲間の馬と別れ、はじめての奉公先であるゴードン家へ迎え入れられる。そこで「ブラック・ビューティー」と名付けられた黒馬は、人間のために働く馬としての生活をスタートさせる。しかし、それは決して楽しいばかりのものではなかった…。

日本では「黒馬物語」と翻訳されている古典の名作。親切にしてくれた人間とのエピソードや、過酷に扱われても黙々と耐える日々の様子が、馬の目線で語られている。その語り口は静かで、馬の穏やかで優しい気質とも重なって、より胸に迫ってくるものがある。

この本は、カナダの出版社(Random House Books)が出している「Stepping Stone Book (TM) 」シリーズの中の1冊。子供向けに平易な英語で書かれているので、英語学習者にもおすすめ。

人間のエゴと動物

「良い人間もいれば、悪い人間もいる。それでもいつも最善を尽くし、自身の名誉を守るように」

There are many kinds of men in the world. Some are good and kind like our master, but others are bad and cruel.
A horse never knows who may buy him, so I do not know where you will go. But I hope you will always do your best and keep up your good name.

そんな母馬からの言葉を胸に、ブラック・ビューティーは生まれ育った牧場を旅立つ。貴族の馬車として、あるいは「貸し馬屋」の馬車として、荷物の運搬馬として、さまざまな人間たちの間を渡り歩くブラック・ビューティー。そして母親の言葉通り、親切な人間にも、馬を酷く扱う人間にも出会う。

特に馬にとって過酷なものとして出てくるのが bearing rein(馬に頭を下げさせないようにするための手綱)。ある貴族の家では、「おしゃれに見えるように」、あるいは「それが最新のファッションだから」という理由で、頭をきつく縛り上げられ、ブラック・ビューティーは心身ともに、元気を失ってしまう。

動物と身近に接すると、言葉は通じなくても、感情や気持ちは伝わっていると実感することがある。本の中のブラック・ビューティーも、主人が尊敬できる人間だとわかれば、人間を信頼し、その期待に応えるように懸命に働く。一方、ブラック・ビューティーの友だちの雌馬ジンジャーは、人間に酷い扱いを受けるうちに、「人間は敵だ」と思うようになってしまう…。

本が出版されてから約150年が経った現在。人間と動物の関係は、少しずつでも良くなっているのだろうか。

「無知」は「悪意」と一緒。

もう1つ、本の中で印象に残った言葉。

新入りの馬丁が、誤った世話をしてブラック・ビューティーを危険な目に遭わせてしまった時、獣医は「彼に悪気はなかった、知らなかっただけ…」とかばうのだが、先輩の馬の世話人は「『知らなかった』じゃ、許されない!」と怒る。

Only Ignorance! Why, ignorance is the worst thing in the world, next to wickedness. People say, ‘Oh, I did not know any better. I did not mean any harm.’ They think that makes it all right.

この場面は、馬の世話人が、どれだけブラック・ビューティーや他の馬たちを大切にしているかが表れているだけでなく、職業人としてのプライドも強く表れていると思う。

厳しい言い方だけど、世の中、「知らなかった」で、なんでも許されるわけじゃない。そして、そう教えてくれる先輩の存在は、けっこう大事なのかもしれない。「知らなかったのだから仕方ないね」ですませてしまえば、人は何も学ばなくなってしまう。

さて、馬たちへの愛情とプロとしての姿勢をしっかり引き継いだ新人馬丁とブラック・ビューティーは、長い時間を経て再会するのだが、その場面は、実際に本を読んで楽しんでほしい。

日本生まれ、日本育ち。本が大好き。 特にミステリー、冒険もの、歴史もの。 海外駐在員。 TOEIC 950、IELTS Academic 7.0

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