カナダの出版社(Random House Books)が出している「Stepping Stone Book (TM) 」シリーズのうちの1冊。子供向けに平易な英語で書かれているので、英語学習者にもおすすめ。
本作は、The Adventures of Sherlock Holmes(『シャーロック・ホームズの冒険』)に収められている短編3作をリライトしたもの。ページ数は全体で60ページと短めで、洋書初心者でも読みやすい。
3つの短編
1. The Adventure of the Speckled Band(まだらの紐)
ヘレン・ストナーは、継父のロイロット氏と2人暮らし。ヘレンには、双子の妹ジュリアがいたが、2年前、結婚が決まった2週間後に突然亡くなってしまったという。「紐!まだらの紐!」とだけいい残し…。そして今回、結婚が決まったヘレン。そんなヘレンに継父のロイロット氏は、突然、妹が使っていた部屋に移動するように命じる。何か胸騒ぎのするヘレンは、相談のためホームズの元を訪れる。
2. The Read-headed League (赤毛連盟)
ロンドンには「赤毛連盟」なるものがあるらしい。なんでも、ロンドンで成功を収めたアメリカ人の富豪が、自分と同じ赤毛の男性のために設立したという。その赤毛連盟が不思議な求人を出した。「簡単な仕事をするだけで、高額な給与を支払う」と。ただし、採用の条件は「赤毛であること」。傾きかけたお店を経営していたウィルソン氏は、この赤毛連盟の面接に見事合格。百科事典を書き写すという「簡単な仕事」をしていたのだが、8週間後、突然仕事が打ち切られてしまう。怒ったウィルソン氏は、ホームズに相談に訪れる。
3. The Adventure of the Blue Carbuncle(青い紅玉)
クリスマスの日、ドアマンのピーターソン氏は、ガチョウを担いだ背の高い男性が、数人のチンピラに襲われているのを目撃する。助けに入ろうとした瞬間、ガラスが割れる音とともに、背の高い男性も、襲った男たちも逃げ去ってしまう…。ピーターソン氏は、その場に残されたガチョウと男性の帽子を、探偵ホームズに届けるが、クリスマスも2日を過ぎ、持ち主が見つからないまま食べ頃となってしまったガチョウ。ピーターソン夫妻は、ホームズから返却されたガチョウを食べることにしたが、なんと調理中にガチョウの腹から青い宝石が!謎の宝石を持って、ピーターソン氏は、再びホームズの元を訪れる。
今なお愛されるシャーロック・ホームズ
リライト版なので、オリジナルと比べると省略されている部分はあるものの、ホームズの面白さは健在。
He put his fingers together. (He often does that when he is thinking.)
と、ホームズが集中している時の有名な癖も描写されていたり、
“I saw a horse-racing form in that man’s pocket,” he said.
“You can always use a bet with a man like that.
と、鋭い観察眼で、どんな些細な事実も見逃さない様子も描かれています。
最初の出版から100年以上が経った今もなお、新たに映像化されたり、他の作家が自分の探偵小説に登場させたりと、衰えることを知らないシャーロック・ホームズ人気。しかし、コナン・ドイル自身は、それほどシャーロック・ホームズの執筆に熱心ではなかったそう。真面目な歴史小説が書きたかったドイルは、人気になりすぎたシャーロック・ホームズシリーズを終わらせるべく、ホームズを宿敵モリアーティーもろとも谷底に突き落としたというのは有名な話。(結局、ホームズの続編を熱望する声に押され、仕方なく再開することになったけれど…。)
しかし、今も世界中で、これだけ多くの人に愛され、読み継がれていることを知れば、ドイルも、「頑張って続けたかいがある」なんて草葉の陰で考えているかもしれない。