プリヴェット通り四番地に住むダーズリー家は、夫婦と小さな息子の3人暮らし。「普通」であることを何よりも大切にしているダーズリー氏は、この日もいつも通り、朝8時半に家を出て仕事に向かう。しかしその日は、彼の好む「普通の」1日ではなかった。街中にカラフルなマントを着た人々があふれ、昼間からフクロウが飛び交い、雨降りで有名なイギリス全土に星が降る「奇妙な」1日。そしてその夜、ダーズリー夫妻の元に、義理の家族ポッター夫妻の1人息子、ハリーが送り届けられる。
それから10年後。ハリー・ポッターは、ダーズリー家の物置部屋に住んでいた。ハリーを嫌う叔父と叔母、そしてそのいじわるな息子と共に。しかし、11歳の誕生日、ハリーの前に大男が現れる。彼が持ってきたのは、魔法使いの学校ホグワーツへの入学を知らせる手紙だった。自分が魔法使いであることを知ったハリーは、魔法を学ぶためホグワーツへ。そして、ハリーの冒険が始まる!
↓なお、こちらのイラスト付バージョンは、Amazon Kindle Unlimitedの対象。
リアルな魔法の世界
ホグワーツ魔法学校の新1年生は、制服として「黒のマント3着、黒のとんがり帽1つ、ドラゴンの皮の手袋1組、冬用コート1着」を用意すること。持ち物は「魔法の杖1本、大釜1つ…」なんて、いかにも魔法使いの世界という感じでワクワクさせる。そして、ロンドンのキングス・クロス駅から出ているホグワーツ行きの列車や、幽霊やポルターガイストがいるホグワーツ魔法学校、クィディッチという魔法の世界のスポーツ…。こういった作り込まれた世界観が、ハリー・ポッターシリーズの魅力の1つ。
一方で、ハリー・ポッターの世界は、どこか遠くの世界ではなく、私たちの世界の延長線上にある。ホグワーツ学校には、金持ちの家の子も貧乏な家の子もいれば、賢い子も落ちこぼれもいる。生徒たちは宿題に追われ、嫌いな先生がいて、仲の悪い同級生と喧嘩して、スポーツに熱狂する。
主人公のハリーは、特別優秀でもない自分が、魔法の世界では知らない人のいない有名人であることに不安を感じているし、親友のロンは大家族で貧乏なことがコンプレックス。ハリー・ポッターの世界には、スーパーヒーローはいない。強いところもあれば弱いところもある、不完全で複雑で、人間臭いキャラクターばかり。魔法の世界のワクワク感の中に、私たちの知っている現実世界がそのまま反映されている。だからこそ、私たちはキャラクターに共感できるし、ハリー・ポッターシリーズはこんなにも人気があるのではないかと思う。
運命の組分け
シリーズ1巻目の重要なシーンは、なんといっても寮の組分け。
勇気のグリフィンドール、公正誠実なハッフルパフ、賢さのレイヴンクロー、野心的で狡猾なスリザリンと、4つの寮には特長があって、生徒はいずれかの寮に組分けされる。
ハリーもロンもハーマイオニーも、そしてマルフォイも、希望通りの寮に入っているし、組分け帽子は、基本的に本人の意思を尊重している模様。それは、「その人にどんな能力があるか」よりも、「その人がどんな人か、何を大切にしているのか」を見ているということでもある。実際、優等生で勉強が得意なハーマイオニーも、レイヴンクローではなくグリフィンドールに。賢さは彼女の強みではあるけれど、ハーマイオニーにはそれ以上に大事にしていることがあるのだ。
‘Books! And cleverness! There are more important things – friendship and bravery and – oh Harry – be careful!’
ところで、ハリーとマルフォイの関係からライバル同士に見えるグリフィンドールとスリザリン。ライバルなのは間違いなさそうだけど、マルフォイが「絶対に入りたくない」と言っていたのはハッフルパフ。野心家でどんな手を使っても得たいものを手に入れるスリザリンと、親切で勤勉なハッフルパフ。スリザリン的な人からみたら、ハッフルパフに属する人間は「間抜けなやつら」に映るのかもしれない。実際、ハッフルパフはちょっと地味な存在だし、私も子どもだったら、「グリフィンドールかレイヴンクローに入りたい!」なんて思っていたかも。でも大人になると、ハッフルパフ的な人間こそ尊敬に値するし、平和で良い社会を作るために不可欠な存在だということが分かるようになってくる。そんなわけで、今後のハッフルパフの活躍に密かに期待。