孤児院育ちで、孤児院を出てからは見習い奉公をしていた少年ウィッジが、様々な経験を経て成長していく。
孤児院でも奉公先でも、大人たちにきつく当たられるのが当たり前。友だちと呼べる存在もいなかったウィッジ。新しい主人から逃れ、ロンドンの劇場に辿り着くが、そこでの生活はこれまでと何かが違う。劇場の仕事や稽古を通じて、ウィッジは人の暖かさを知り、仲間たちとの友情を深めていく。
人生で大切なもの
「人生で大切なものは何だろう」というのが、この作品の大きなテーマ。仲間や家族への愛、そして挑戦することの大切さが書かれている。
ウィッジは苦しい生活の中で、「ここではない、どこか遠い世界」に思いを馳せる一方で、慣れ親しんだ環境を離れることに不安や恐怖も感じている。新しい世界に飛び込むのは怖い。でも、新しい世界に飛び込んだからこそ得られるものがあることも、経験を通して学んでいく。劇場のヘミングズさんが、新しい役を受けるウィッジにかける言葉、
Whether or n-not you have the ability is not the question, but whether or n-not you have the c-courage.
「問題は能力があるかどうかじゃなくて、挑戦する勇気があるかどうかだよ」
は、ウィッジだけでなく、何かに挑戦しようとしている人の背中を押してくれるのではないだろうか。なお、ヘミングズさんは、吃音持ちなので、notがn-notと表現されている。
シェイクスピア時代のイギリス
England is a paradise for women, a prison for servants, and a hell for horses.
「イングランドは女性にとっては天国、使用人にとっては刑務所、馬にとっては地獄。」
本に出てくるこの言葉。エリザベス1世と交流のあったドイツのヴルテンベルク公フリードリヒ1世が、イングランドを訪れた際に書き残した言葉だそう。当時のイングランドの女性たちが、はたしてこれに同意するのかは不明だけど、当時のイングランドは他の国に比べたら女性にも多少自由が認められていたらしい。とはいえ、自由の制限は生活の様々なところにあって、女性は俳優になれず、男性がすべての役を演じていたそうで、このことも本作の大事な要素になっている。
日本でも、風俗を乱すという理由で女性が演劇から遠ざけられた過去があったり、小さな子供が、丁稚奉公として他所の家で働いていたりと、意外と共通するところがあるのも興味深かった。
シェイクスピアの出番は…
シェイクスピアの登場シーンは、あまり多くない。「ハムレット」に幽霊の役で出演したり、主人公と話をする場面はあるけれど、シェイクスピアの作品がたくさん出てくることを期待して読むと、ちょっとがっかりするかも。とはいえ、本作には続編があるので、シェイクスピアの人となりや作品については、そちらで楽しめるかも?